はじめに

書かれていることと注意
  • RoboCupJunior(以下RCJ)へ参加した経験を踏まえて、大会全体を通してよく使われるモデルをまとめ、それらのスペックの比較を行いました。
  • それぞれの主観的な評価と、購入先についての記載がありますが、特定の製品や購入サイトへの影響を意図したものではありません。
対象となる人
  • RCJ参加者または参加を検討している人、そのメンターなど

モータとギアヘッドそれぞれについて,自分の知っている範囲でまとめます.
記事内リンクは2017年1月時点のものです.

ダイセン:ロボサイトギアモーターRA25

ロボサイトギアモーター
写真引用元:https://www.vstone.co.jp

言わずと知れたRoboCupJunior定番ギアモータ.
非常に安価で入手性も高いが,構造上の問題もいくつか存在する.

特徴(良い点悪い点):
・安い
・ユーザーが多い(部活等だと使い回し・補填のメリットが効く)

・付属の固定パーツ(写真の黒い樹脂の部分)がモータのみを固定する構造であるため,出力軸に車輪を付けて負荷をかけた場合,ピニオンギアとギアヘッド初段ギアとのかみ合わせ部分に負荷が集中する.更に接合部の固定ネジがM2ねじ2本のみで固定が貧弱.
・スパーギアヘッド各段はベアリングなし→軸受が削れていく.

ダイセン ロボサイトギアモーターRA25 15:1 基本スペック

定格電圧:DC6[V]
出力軸ストールトルク:255.9[mNm] (換算値)
出力軸無負荷回転数:466[rpm] (換算値)
モータ+ギアヘッド重量:74[g]

購入先:
ダイセン電子工業 ギヤモーター ギヤ比15:1
Vstone Robot Shop

データシート:
 RA25シリーズ

MFA 918Dシリーズ
MFA 918D
写真引用元:http://shop.ayard.jp
いわばロボサイトモーターの進化版.
ロボサイトギアモータの最大の欠点である接合部のズレが起きにくい.

特徴(良い点悪い点):
・モータとギアの接合部を保持するためピニオン↔初段とのかみ合わせに負荷がかかりにくい.
・マウントが付属.

・モータが貧弱.
・ダイセンさんとは出力軸の互換性がない.

MFA 918D15112/1 15:1ギアダウンモーター 基本スペック

定格電圧:DC12[V]
出力軸ストールトルク:117.6[mNm]
出力軸無負荷回転数:472[rpm]
モータ+ギアヘッド重量:72[g]

購入先:
RSオンライン DCギアモータ Como Drills 442 rpm 918Dシリーズ
AYARD MFA 918D15112/1 15:1ギアダウンモーター(RE280/1:6-12V)472rpm/12V

データシート:
Como Drills 918Dシリーズデータシート(英語) 

DIGILENT IG22 1/19
Digilent IG22 1:19
写真引用元:http://www.digikey.jp
モータ+プラネタリギアのセット
モータ側にホールセンサ(磁気センサ)を用いた磁気ロータリエンコーダが搭載されている.

特徴(良い点悪い点):
・プラネタリ(遊星)ギア
・高回転数
・ローノイズ

・海外輸入になるため送料等は要検討
・取り付け台やハブは自前で用意する必要がある

DIGILENT IG22 1/19 基本スペック

定格電圧:DC12[V]
出力軸ストールトルク:215.75[mNm]
出力軸無負荷回転数:789[rpm]
モータ+ギアヘッド重量:66[g]

購入先:
DigiKey Digilent, Inc. 290-006

データシート:
DIGIENT.Inc IG220019 Datasheet (英語)



RS-380PH + IG32 1/19 
suzakulab_rs-380phgm027
写真引用元:http://store.shopping.yahoo.co.jp/suzakulab
かわロボ等でもよく使われるハイパワーモーター.

特徴(良い点悪い点):
・重量とパワーの釣り合い位置が高い.
・RCJ用途であれば,基本的にはどう無茶しても壊れないレベルの強度と耐久性がある.
・プラネタリーギアヘッド ローノイズ

・RoboCupJunior用としては、ロボットの重量に対して出力過多になる傾向があるため、爆速・暴走アプローチで使う以外では、オーバースペックとなりがち(詳しくは最新記事:RCJモータ論 )
・進角あり(ただし模型用パッケージの380は中性仕様らしい、
↑の写真もそう
内容訂正:2018/05/31
RS-380PH + IG32 1/19 基本スペック

定格電圧:DC6[V]
出力軸ストールトルク:1472.5[mNm]
出力軸無負荷回転数:657.9[rpm]
モータ+ギアヘッド重量:276[g]

購入先:
朱雀技研工房ストア マブチモーター RS-380PH + IG32 1/19

データシート:
RS-380PH データシート(日本語)
朱雀技研 IG-32 データシート


Pololu 20D High Power 6V 25:1
Pololu 20D
写真引用元:www.pololu.com
Pololuギアモーターシリーズの直径20mmタイプ

 特徴(良い点悪い点):
・軽くて小さい
・Pololu公式でマウントとハブが販売されている
・トルクが小さい
・国内だと25:1の取扱がないので注意
Pololu 20D High Power 6V 25:1 基本スペック

定格電圧:DC6[V]
出力軸ストールトルク:211.8[mNm]
出力軸無負荷回転数:560[rpm]
モータ+ギアヘッド重量:43[g]

購入先:
朱雀技研工房ストア Pololu 29:1 金属ギヤードモータ 20Dx41Lmm ※注意※ギア比29:1
Pololu 25:1 Metal Gearmotor 20Dx41L mm 6V

データシート:
購入先の下(Pololu公式)を参照


Pololu 25D High Power 6V 20.4:1
Pololu 25D High Power 12V 20.4:1

Pololu 25D
写真引用元:www.pololu.com
Pololuギアモーターシリーズの直径25mmタイプ 6Vタイプと12Vタイプがある.

  特徴(良い点悪い点):
・バランスの取れたトルクと回転数
・Pololu公式でマウントとハブが販売されている
・ユーザーが少ない

Pololu 25D High Power 6V 20.4:1 基本スペック

定格電圧:DC6[V]
出力軸ストールトルク:529.7[mNm]
出力軸無負荷回転数:460[rpm]
モータ+ギアヘッド重量:85[g]

購入先:
朱雀技研工房ストア Pololu 20.4:1 金属ギヤードモータ 25Dx50L mm HP 6V
Pololu 20.4/1 Metal Gearmotor 25Dx50L mm HP 6V

Pololu 25D High Power 12V 20.4:1 基本スペック

定格電圧:DC12[V]
出力軸ストールトルク:600.3[mNm]
出力軸無負荷回転数:500[rpm]
モータ+ギアヘッド重量:85[g]

購入先:
朱雀技研工房ストア Pololu 20.4:1 金属ギヤードモータ 25Dx50L mm HP 12V
Pololu 20.4:1 Metal Gearmotor 25Dx50L mm HP 12V

データシート:
各購入先の下(Pololu公式)を参照


maxon RE16 12V 4.5W + GP16A 1/19 (135531)
135531
 写真引用元:http://cam.maxonjapan.co.jp
パワー対重量が圧倒的に高い高級モータ.
国内であればSchool Surpportサービスを使用することで大幅に安く購入できる.
関東圏であれば秋葉原Vstoneロボットセンターで店頭取扱がある.

  特徴(良い点悪い点):
・高効率
・省スペース
・コアレスモータ 高応答性
・コギングなし

・高価
・ギアヘッドが脆い 特にRCJで2kg程度のマシンを受ける場合は外部ベアリング等必要
maxon RE16 12V 4.5W + GP16A 1/19 (135531) 基本スペック

定格電圧:DC12[V]
出力軸ストールトルク:651.7[mNm]
出力軸無負荷回転数:731.6[rpm]
モータ+ギアヘッド重量:63[g]

購入先:
maxon School Surpport RE16+GP16A (135531)
Vstone Robot Shop

データシート:
RE16+GP16A (135531)


FAULHABER 2237 + 22/7 1/14
product_2237_CXR_Pproduct_22-7_P
写真引用元:www.faulhaber.com
ドイツのモーターメーカーFAULHABER(ファウルハーバー)のモータ・ギアヘッド.
日本では代理店の新光電子さんから購入可能,ただし国内に在庫を持たないため,注文からのリードタイムは平均して数ヶ月かかる.

  特徴(良い点悪い点):
・高効率
・コアレスモータ 高応答性
・コギングなし
・ギアヘッドの品質が高く壊れにくい
・高価
・リードタイムが長い
・エネルギー密度は比較的高くない
FAULHABER 2237-012CXR + 22/7 1/14 基本スペック

定格電圧:DC12[V]
出力軸ストールトルク:639.8[mNm]
出力軸無負荷回転数:485.7[rpm]
モータ+ギアヘッド重量:131[g]

購入先:
新光電子
FAULHABER

データシート:
FAULHABER 2237_CXR データシート(日本語)
FAULHABER 22-7 データシート(日本語)


各スペックの比較

比較方法:
以下の方法でギアモータの出力を比較してみました.重要な部分は太字です.
回転数がなるべく並ぶようにギア比を決定する
・ギアヘッド出力段のストールトルクと無負荷回転数で比較をする
・出力段のトルクと回転数がデータシートに記載されている場合はそちらを用いる
・データシートに出力段のデータがない場合は,モータとギア比から以下の式を用いて出力軸に換算する.この場合ギア伝達効率を100%と仮定している事に留意する
ギアヘッド出力軸トルク = モータトルク / ギア比
ギアヘッド出力軸回転数 = モータ回転数 ×ギア比


①:出力軸ストールトルク比較
 ストールトルクとは「モータに電圧が加わった状態で回転軸が完全に停止した状態」の,出力軸のトルク[mNm]を指します.以下のグラフ比較では,すべてのトルク単位を[mNm]に換算して比較しています.
 ストールは一般的に,モータが停止した状態で電流を流した瞬間(起動時)と,回転軸に大きな負荷がかかって回転が停止した際に発生します.また,ストール状態ではモータに大きな電流が流れ続けてしまい,モータが壊れてしまうため,ストールする時間は少なくなるように工夫しなければなりません.具体的には,プログラムにおいて正転・逆転を繰り返す動作を避けたり,選定の際にストールトルクの高いモータを使うことで,同じ負荷でもストールしにくくなります.
 今回は,ストールトルクだけで比較を行います.しかし,厳密な負荷対トルクは,T-I特性(トルクー電流特性)グラフを使って検討する必要があります.詳しくはデータシート等を参照してください.
ストールトルク
RS-380PH+IG32が圧倒的トップです.しかしmaxon RE16も380モータに続いて上位を取っています.
Pololuの25Dシリーズがどちらの電圧も高いトルクを示しています.
ダイセンモータは換算値なので,もう少し低く出る可能性はありますね.
ComoDrillsの918Dはトルクが厳しそうです,モータ換装も考えたほうが良さそうですね.


②:出力軸回転数比較
 出力軸回転数は「ギアモータに何も負荷が加わってない状態=軸だけ空回ししている状態」の出力軸の回転数[rpm]を指します.回転数の[rpm](英語:revolution per minute)は,1分間で軸が何回転するかを示す単位です.
 今回は,無負荷時回転数だけで比較を行います.しかし,トルクの場合と同様に,厳密な負荷対回転数はT-N特性(トルクー回転数特性)グラフを使って検討する必要があります.こちらもデータシート等を参照してください.
回転数
比較方法でも説明したように,回転数がなるべく並ぶようにギア比を決定されているので,全体的に並んでいます.ダイセンギアモータは15:1以上はギア比を下げられないでしょうから,かなり厳しくなってくる気がします.DIGILENTのIG22は明らかに高回転タイプに分類されるでしょう.
そしてmaxon RE16は回転数でも首位です.FAULHABER 2237CXRは回転数としては平均的ですね.


③:出力軸ストールトルク×回転数
 ①と②の値を掛け算したものです.ギアで減速した場合「トルクが大きくて回転数が小さい」「トルクが小さくて回転数が大きい」それぞれの特性に偏ることがあります.そのため,トルクと回転数の積を比較することで,モータそのもののパワーを示す目安になります.しかし厳密には,ある負荷を与えた際の数値を検討すべきなので,厳密な検討方法ではない事を踏まえて下さい.あくまで目安です.
トルク×回転数
パワーではRS-380がトップとなりました.まあ一番でかいモータなので当たり前ですが.
そしてmaxon RE16が,FAULHABERを大きく突き放しました.ストールトルクでは僅差だったのですが,回転数で優位に立ったようです.また,回転数でワーストだった6VタイプのPololu 25Dが順位を上げています.6Vタイプは若干「高トルク低回転」寄りなんでしょう.
また,DIGILENT IG22が平均的で安定したパワーを持っていることもわかります.


 ④:(出力軸ストールトルク×回転数) / 重量
 ③の値をモータの重量で割ったもので,重量対パワーを指します.ロボットにおいては,同じ重量であれば軽いほうがより効率よく動くことができるため,グラフの結果が高いほど機敏性が上がります.特にRCJライトウェイトリーグでは重量対パワーは重視してモータを選ぶといいでしょう.また,この数値も③の曖昧さを含んでいます.あくまで目安として参考にしてください.
トルク×回転数÷重量
パワー対重量でmaxon RE16がダントツとなりました.
maxonの次がPololu 25Dというのは意外です.結構できる子ですね!
RS-380は,パワー自体は大きいのですがそれ相応に重量も大きいため,パワー対重量では極端な優位性は持たないことがわかります.ただ,それでも上位をキープしている良いモータですね.
平均的なモータとしては,Pololuの25D 6VタイプとDIGILENT IG22です.汎用モータとしてはこのあたりがベストなバランスになってくるかもしれません.
FAULHABERは序盤maxon RE16と競り合っていましたが,パワー対重量で大きく突き放されています.ただし,設計においては「壊れにくさ」も考慮して選定しますので,一概にパワー対重量が高ければいいモータという訳ではありません.むしろ軽い=壊れやすい可能性もあります.


以上モータ+ギアヘッドのまとめでした.

トルクの換算計算には以下のサイトを使わせていただきました.
トルクの自動換算

以下,参考文献です.
マクソンアカデミー - maxon japan
技術ガイド - マブチモーター 
モータドライバ博士のQ&A - Device Plus
FAULHABER 2237_CXR - Technical Information (日本語)

当記事内の写真は,条文32条(引用)
「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。 」
を踏まえ,引用元を明記した上で無編集で使用させて頂きました.
 
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