KitMill RD300の組立をした際に撮影した写真が残っていました。
せっかくなので簡単に紹介します。
ただ、僕は電気電子工学専攻なので、機械の厳密な用語・知識については不足している部分が多くあります。以下には、完全に独学の聞きかじった知識も含まれます。
機械をコンピュータ数値制御する際には、CNC本体が理想的な状態(XYZの三軸がそれぞれ90度ピッタリに交わっている)である事を前提とした制御信号を送ります。すなわち、もしCNCの軸の直交に狂いが生じていた場合は、その分だけ加工の誤差として、パーツの仕上がり精度に影響を与える事になります。

図1:3軸CNCにおける主な誤差の要素
図1において、組み立てを行うユーザーの技量が問われる作業は、マゼンダで示された「軸の垂直度」です。オリジナルマインドのCNCをはじめ、ユーザーによって軸垂直を調整できるタイプのCNCは、この軸の垂直度を向上させる事で、パーツの精度を向上させることができます。軸の垂直度調整の具体的な方法については後述します。
図3のボールスクリューは、摩擦負荷が非常に小さいという特徴があり、回転動作を直線動作に変換する正動作に加えて、直線動作を回転動作に変換する逆動作が可能であることも大きな特徴です。制御においても、摩擦が小さい事でフィードバック制御系における定常偏差が発生しにくくなるため、位置決め精度も向上します。
ただし価格が高いのが難点です。


図2:デュアルナット与圧式台形ねじ 図3:ボールねじ
門型のCNC(X軸ユニットがY軸ユニットによって移動される構造のCNC)は、Y軸の荷重負荷がX軸に比べ非常に大きくなるため、XY軸のバックラッシ量に差が生じることがあります。この、XY軸のバックラッシの差も、部品の歪みを引き起こす原因になります。
余談ですが、高級なCNCなどでは、X軸とY軸それぞれにかかる負担がなるべく等しくなるように、Y軸はテーブルが動き、X軸はスピンドル側が動くような構造をしているもの(例:MDX-540)があります。
CNCフライスにおける軸の回転方向は、リニアガイドを2本用いる事で抑制される事が多いです。軸の回転方向に負荷がほとんどかからない3Dプリンタの中には、リニアガイドを1本だけ使ったモデルも存在します(例:Afinia H480)。
それ以外にも、リニアガイドを固定するフレームの剛性に大きく依存する事になるでしょう。例えばORIGINALMINDのKitMillシリーズにおいては、板金フレームのSR・BT・Qtシリーズと比較して、ダイカストフレームのRD・RZシリーズは、軸回転方向の剛性が非常に高いといえます。
図1で説明された要素以外にも、CNCの組み立て精度を厳密に検討するにあたっては、基本的な機械の知識(特にネジやリニアガイドなどの機械要素に対する知識)が必要になるかもしれません。ただ今回は、個人がホビー用途に導入する3軸CNCの組み立てに必要な知識以上の事は無視することとします。実際、私もCNCの組み立てにあたって、ボルトの締結は六角レンチで適当にエイヤッと締めてました。
使用方法 / 取付け|選定や設計に役立つリニアガイド総合情報|MISUMI-VONA
このうち、ブロックの取付面の平面度や高さ誤差許容差については、CNCフライスのフレームについての検討が必要であるため、無視する事にします。今回検討する対象はあくまで、組み立てのプロセスで実現できる範囲に留めたいと思います。

図4:Y軸のリニアガイド平行出し
こういう写真をUPしておいて何ですが、平行測定においてはレールを直接測定するのではなく、ブロックの基準面に対して測定を行うべきです。先程の参考サイトにも「レール及びブロックの基準面」の説明があります。
ただし、必要な項目を押さえてさえいれば、レールを直接測定する方法も間違いではないようです。
図4はY軸(ストローク300mm)のレールの平行出しをしている様子です。
両端の写真しか撮影していませんが、レールの全体にわたって針が振れないように調整します。
厳密には、ダイヤルゲージのベース側のリニアガイドの直線性についても検討を行うべきです。その際には、ストレートゲージ(精密に直線加工された鋼材)と組み合わせて、直線度を検討する必要があると思います。
X軸・Z軸についても、2本のレール間の平行出しについては、同様の手順で行いました。

図5:スコヤをテーブルに固定してX軸との平行出し
スコヤというのは、ざっくり言えば鋼材でできた高級な直角定規みたいなものです。
JIS B 7526:1995 直角定規 - 日本工業規格の簡易閲覧
ただ、このJIS1級が付いているスコヤというのはそれなりの値段がしますので、この際は学校からお借りして調整をしていました。
図5のように、バイスにスコヤを挟んでテーブルに軽く固定します(今見るとCNCの部品を使って締めるという、結構ヤバい事をしていますが、まあ見なかったことにして下さい…)。
バイスを指先でコンコン叩きながら、ダイヤルゲージの目が100[mm]ストローク中で一切振れなくなるまで追い込みます。

X軸の平行出し後、Y軸リニアブロック↔門の座部との締結を調整してY軸との平行出し
ORIGINALMINDの最新機種であるKitMill RZシリーズではこの問題が解決されているようですが、RDシリーズはXY軸の垂直調整が非常にやりずらいです。調整にあたっては、門の座部に直接アクセスする事で調整を行いました。

図6:XY直角出しのためにY軸リニアへアクセスする
RDシリーズは現状、こうするのが一番やりやすいと思います。RZシリーズでは門の側面締結が垂直方向への締結に変更されているので、ここの調整が非常にやりやすくなったそうです。
ただ、ここのボルトを使って調整を行うと、リニアガイドのブロックの位置が狂う可能性はあります。特に、逆方向に負荷がかかった状態でボルトを回すと、殆どの場合で位置が狂います。ここの位置調整は非常にやり辛く、神経を使う作業になります。
作業が完了したら、もう一度スコヤのX軸Y軸を両方確認して、最終的結果を確認するようにします。

図7:ボルト締結後の最終測定結果
XY直角を出したら、XY平面の法線方向にZ軸を調整する必要があります。すなわち、X軸とY軸両方に対して垂直を出す作業になります。ここで、CNCのテーブルを平面フライスすることでXY平面を作成します。

図8:XY平面とZ軸との垂直出し
最後にスピンドルとXY軸との垂直を測定するんですが、ここは写真を撮り損ねていました。
KitMillはスピンドルとの接合面に2つの可動式のチップが固定されていて、それを調整すれば垂直の再現性が取れるようになっています。ただZ⊥Yの調整はシムを挟むことでしか行えないので、精密シャフト SUS303 - ヒロスギネット のうち、該当するシャンク系の比較的長めのものを購入して、主軸にチャックさせてスピンドルの垂直出しをしました。

図9:0.02[mm]のバリを残す切り抜き加工
私は通常のアルミ加工は保護シートの上から両面テープを貼り、0.02mmだけ切り残す方法を取っています。油漬けにする場合などはこの限りではありませんが、大抵の加工は保護シートの粘着力で問題なく加工ができます。ただし、同じことをご自分でされる際には自己責任でお願い致します。
図9のような、全体にアルミホイルのような薄いバリがかかるような結果に仕上げるのは、私が知る限りなかなか難しいようです。きちんと精度出しをした結果なのだと思います。他にも、CNCでギアを削り出す際などは非常に高い切削精度が要求されますので、そういう場面で差が出てくるのかなと思います。

図10:KitMill BT200での精度出し作業
以上で説明した手順は、当然ながら他の機種に対しても有効です。
図10はORIGINALMINDのKitMill BT200に対して、同様の手順で精度出しをしている所です。XY平面の調整なんかはRZよりもやりやすいですが、リニアガイドではなくリニアシャフトと呼ばれるタイプの、安価なリニア機構が使われています。
その関係で、軸の回転方向の精度出しが非常にシビアになります。リニアシャフトの平面・回転誤差を正確に測定することは難しいため、リニアシャフトのCNCは精度出しに限界があると思います。
以上です、それでは今年も良いCNCライフを!
せっかくなので簡単に紹介します。
ただ、僕は電気電子工学専攻なので、機械の厳密な用語・知識については不足している部分が多くあります。以下には、完全に独学の聞きかじった知識も含まれます。
CNCの精度出しの基本的な考え方
3軸CNCの場合、3つの直線軸を持ち、それらがXYZの三軸方向に交わる構造をしています。機械をコンピュータ数値制御する際には、CNC本体が理想的な状態(XYZの三軸がそれぞれ90度ピッタリに交わっている)である事を前提とした制御信号を送ります。すなわち、もしCNCの軸の直交に狂いが生じていた場合は、その分だけ加工の誤差として、パーツの仕上がり精度に影響を与える事になります。

図1:3軸CNCにおける主な誤差の要素
図1において、組み立てを行うユーザーの技量が問われる作業は、マゼンダで示された「軸の垂直度」です。オリジナルマインドのCNCをはじめ、ユーザーによって軸垂直を調整できるタイプのCNCは、この軸の垂直度を向上させる事で、パーツの精度を向上させることができます。軸の垂直度調整の具体的な方法については後述します。
軸のバックラッシと回転
図2のような台形ねじを使用している箇所(KitMill RD300はボールスクリュー使用時もZ軸のみは台形ねじ)においてはユーザーの調整次第でバックラッシュを減らすことが可能です。ただしデュアルナット与圧台形ねじの場合、バックラッシを小さくすると摩擦による負荷が大きくなります。図3のボールスクリューは、摩擦負荷が非常に小さいという特徴があり、回転動作を直線動作に変換する正動作に加えて、直線動作を回転動作に変換する逆動作が可能であることも大きな特徴です。制御においても、摩擦が小さい事でフィードバック制御系における定常偏差が発生しにくくなるため、位置決め精度も向上します。
ただし価格が高いのが難点です。


図2:デュアルナット与圧式台形ねじ 図3:ボールねじ
門型のCNC(X軸ユニットがY軸ユニットによって移動される構造のCNC)は、Y軸の荷重負荷がX軸に比べ非常に大きくなるため、XY軸のバックラッシ量に差が生じることがあります。この、XY軸のバックラッシの差も、部品の歪みを引き起こす原因になります。
余談ですが、高級なCNCなどでは、X軸とY軸それぞれにかかる負担がなるべく等しくなるように、Y軸はテーブルが動き、X軸はスピンドル側が動くような構造をしているもの(例:MDX-540)があります。
CNCフライスにおける軸の回転方向は、リニアガイドを2本用いる事で抑制される事が多いです。軸の回転方向に負荷がほとんどかからない3Dプリンタの中には、リニアガイドを1本だけ使ったモデルも存在します(例:Afinia H480)。
それ以外にも、リニアガイドを固定するフレームの剛性に大きく依存する事になるでしょう。例えばORIGINALMINDのKitMillシリーズにおいては、板金フレームのSR・BT・Qtシリーズと比較して、ダイカストフレームのRD・RZシリーズは、軸回転方向の剛性が非常に高いといえます。
図1で説明された要素以外にも、CNCの組み立て精度を厳密に検討するにあたっては、基本的な機械の知識(特にネジやリニアガイドなどの機械要素に対する知識)が必要になるかもしれません。ただ今回は、個人がホビー用途に導入する3軸CNCの組み立てに必要な知識以上の事は無視することとします。実際、私もCNCの組み立てにあたって、ボルトの締結は六角レンチで適当にエイヤッと締めてました。
リニアガイド
CNCの各軸の直線動作を構成するリニアガイドですが、その使用につき注意するべき事はかなり沢山あります。3軸CNCの場合、剛性確保のためにリニアガイドを2本使用したリニアテーブル(直線に動作する台座)を構成する事になりますが、その際には- ブロックの取付面の平面度
- 平行度誤差許容差
- 高さ誤差許容差
使用方法 / 取付け|選定や設計に役立つリニアガイド総合情報|MISUMI-VONA
このうち、ブロックの取付面の平面度や高さ誤差許容差については、CNCフライスのフレームについての検討が必要であるため、無視する事にします。今回検討する対象はあくまで、組み立てのプロセスで実現できる範囲に留めたいと思います。

図4:Y軸のリニアガイド平行出し
こういう写真をUPしておいて何ですが、平行測定においてはレールを直接測定するのではなく、ブロックの基準面に対して測定を行うべきです。先程の参考サイトにも「レール及びブロックの基準面」の説明があります。
ただし、必要な項目を押さえてさえいれば、レールを直接測定する方法も間違いではないようです。
図4はY軸(ストローク300mm)のレールの平行出しをしている様子です。
両端の写真しか撮影していませんが、レールの全体にわたって針が振れないように調整します。
厳密には、ダイヤルゲージのベース側のリニアガイドの直線性についても検討を行うべきです。その際には、ストレートゲージ(精密に直線加工された鋼材)と組み合わせて、直線度を検討する必要があると思います。
X軸・Z軸についても、2本のレール間の平行出しについては、同様の手順で行いました。
軸の垂直度調整の手順

図5:スコヤをテーブルに固定してX軸との平行出し
スコヤというのは、ざっくり言えば鋼材でできた高級な直角定規みたいなものです。
JIS B 7526:1995 直角定規 - 日本工業規格の簡易閲覧
ただ、このJIS1級が付いているスコヤというのはそれなりの値段がしますので、この際は学校からお借りして調整をしていました。
図5のように、バイスにスコヤを挟んでテーブルに軽く固定します(今見るとCNCの部品を使って締めるという、結構ヤバい事をしていますが、まあ見なかったことにして下さい…)。
バイスを指先でコンコン叩きながら、ダイヤルゲージの目が100[mm]ストローク中で一切振れなくなるまで追い込みます。

X軸の平行出し後、Y軸リニアブロック↔門の座部との締結を調整してY軸との平行出し
ORIGINALMINDの最新機種であるKitMill RZシリーズではこの問題が解決されているようですが、RDシリーズはXY軸の垂直調整が非常にやりずらいです。調整にあたっては、門の座部に直接アクセスする事で調整を行いました。

図6:XY直角出しのためにY軸リニアへアクセスする
RDシリーズは現状、こうするのが一番やりやすいと思います。RZシリーズでは門の側面締結が垂直方向への締結に変更されているので、ここの調整が非常にやりやすくなったそうです。
ただ、ここのボルトを使って調整を行うと、リニアガイドのブロックの位置が狂う可能性はあります。特に、逆方向に負荷がかかった状態でボルトを回すと、殆どの場合で位置が狂います。ここの位置調整は非常にやり辛く、神経を使う作業になります。
作業が完了したら、もう一度スコヤのX軸Y軸を両方確認して、最終的結果を確認するようにします。

図7:ボルト締結後の最終測定結果
XY直角を出したら、XY平面の法線方向にZ軸を調整する必要があります。すなわち、X軸とY軸両方に対して垂直を出す作業になります。ここで、CNCのテーブルを平面フライスすることでXY平面を作成します。

図8:XY平面とZ軸との垂直出し
テーブルをフライスしてXY平面を作成したら、図8のようにテーブルにスコヤを置いてZ軸からダイヤルゲージを伸ばします。
KitMill RDは、Z軸とXY平面の垂直出しは比較的やりやすかったと思います。垂直の確認方法は、今までと同じようにスコヤに添わせてダイヤルゲージを移動させた時の振れを見て判断します。
最後にスピンドルとXY軸との垂直を測定するんですが、ここは写真を撮り損ねていました。
KitMillはスピンドルとの接合面に2つの可動式のチップが固定されていて、それを調整すれば垂直の再現性が取れるようになっています。ただZ⊥Yの調整はシムを挟むことでしか行えないので、精密シャフト SUS303 - ヒロスギネット のうち、該当するシャンク系の比較的長めのものを購入して、主軸にチャックさせてスピンドルの垂直出しをしました。

図9:0.02[mm]のバリを残す切り抜き加工
私は通常のアルミ加工は保護シートの上から両面テープを貼り、0.02mmだけ切り残す方法を取っています。油漬けにする場合などはこの限りではありませんが、大抵の加工は保護シートの粘着力で問題なく加工ができます。ただし、同じことをご自分でされる際には自己責任でお願い致します。
図9のような、全体にアルミホイルのような薄いバリがかかるような結果に仕上げるのは、私が知る限りなかなか難しいようです。きちんと精度出しをした結果なのだと思います。他にも、CNCでギアを削り出す際などは非常に高い切削精度が要求されますので、そういう場面で差が出てくるのかなと思います。

図10:KitMill BT200での精度出し作業
以上で説明した手順は、当然ながら他の機種に対しても有効です。
図10はORIGINALMINDのKitMill BT200に対して、同様の手順で精度出しをしている所です。XY平面の調整なんかはRZよりもやりやすいですが、リニアガイドではなくリニアシャフトと呼ばれるタイプの、安価なリニア機構が使われています。
その関係で、軸の回転方向の精度出しが非常にシビアになります。リニアシャフトの平面・回転誤差を正確に測定することは難しいため、リニアシャフトのCNCは精度出しに限界があると思います。
以上です、それでは今年も良いCNCライフを!
コメント
コメント一覧 (3)
MonotaROで「マグネットベース」で検索すると沢山出てきます。
具体的な種類までは覚えていませんが、一番安いやつを買ったと思います。
もしCNCを購入する機会があれば参考にさせて頂きます。