お久しぶりです。学内の技術継承を兼ねて、ロボット作るときによく使うテクニックについての解説記事を書く事にしました。以下で書かれている方法はメカについて専門に学んでいない素人の我流ですが、良ければ参考にして下さい。
ロボットのメカ設計において、パーツ同士を垂直に固定する構造は頻繁に出てきます。
例えば図の左側は、直行する2軸のサーボモータを固定するブラケットです。 紫色のベース部分が側面タップのブロックになっていて、そこから縦横2方向にねじ止めされたフレームが伸びてサーボを固定しています。
図の右側は、RoboCupJunior用に作ったmaxon GP16Aのマウントです。 過去の記事 で詳細を説明しています。 マウント本体の固定用にM3のタップが4箇所、またそれに加えてM2の側面タップを使ってクランプの機能を作っています。
「側面タップ」という名前に正式な由来は無いですが、自分やその周辺の人はだいたいこの手法をそう呼んでいます。 板材加工した時の断面に新たに穴加工+タップ加工をして、ねじの垂直ブロックを作る手法です。
別の方法として、板金曲げで似たようなフレームを作る事があります。 上の写真は二足歩行ロボットのキット部品です。2つの汎用ブラケットのねじ固定で構成されていますが、その気になれば1枚の展開板金でも同じ形状のものを作れます。
曲げ加工は生産性が高かったり、部品点数を大幅に減らせたりするメリットがありますが、断続的に変形負荷がかかる箇所には不向きで、金属疲労で壊れやすい傾向があります。 特に、移動するロボットは常に振動の負荷にさらされますから、構造フレームに曲げを使うことは推奨されません。
ただ、部品点数を大幅に減らせるのはメンテナンス性の向上に大きく付与しますので、例えばセンサ等の軽い部品の固定に限って使うことで、そのメリットをうまく引き出すことができると思います。
似たような直行フレームを側面タップのブロックで構成した場合、上の図のような組み方になります。 中心のタップが切られているフレームは厚さ4[mm]のA7075で、M2のタップが切られています。
一方で、部品点数の増加や生産コストの増加などのデメリットもあるため、闇雲に何でもかんでも側面タップで仕上げようとすると作業コストがえらいことになります。 必要に応じて板金や3Dプリンタを使って、なるべく簡単に加工できて、かつ長持ちする設計を目指しましょう。
側面タップを設計する際のテクニックです
3DCADを使う場合の、タップ下穴スケッチの描き方です。
上図の左の面をスケッチに投影して、そこに対角線を引いた中心から円を描き、それを押出で切り抜いて作っています。アセンブリの際にはこの切り抜きを参照して固定拘束をかけます。
以上で紹介した方法はあくまでテクニックなので、必ず必要というわけではありません。
むしろ重要なのは、これから説明する治具のほうで、ぶっちゃけこれさえうまく扱えれば側面タップの部品はだいたい上手く作れると思います。
側面タップで直行フレームをつくるとき、それぞれのパーツが溝で噛み合うような形状を設計すると、より堅牢なフレームを作ることができます。
特に、ねじをせん断する方向に負荷がかかる場合には、フレーム同士の位置関係が狂ったり、最悪の場合ねじが破断したりする事があります。 破断する恐れがないにせよ、ねじ固定されたパーツが振動によってズレる状態は、ねじの緩みを引き起こすため望ましくありません。
移動ロボットの構造フレームにおいては、可能な限りフレーム同士がかみ合うような設計をすることで、高い強度と信頼性を確保できます。 もちろん設計や加工のコストは多少上がりますが、メンテナンスコストを大幅に下げることができるため、ここぞという箇所を狙って使えば、多くのケースでトータルのコスト削減が図れます。
かみ合わせ形状の一例です。
左はΦ1.5のエンドミル、右はΦ2.0のエンドミルで加工する想定で描いています。
エンドミルで内角を切ろうとすると、どうしてもエンドミルの半径分のRが残るため、これを押し切るために外側に円を伸ばしてやります。 そのまま垂直に逃がす方法と、斜め方向に逃がす方法の2パターンをよく使います。
だいたい凹が斜め逃し、凸が水平/垂直逃しになると思われます。
側面の下穴の加工にはボール盤とバイスが必須になります。 材料がある程度分厚ければ、直接パーツの側面をテーブルに立てて下穴を切る事もできますが、ほとんどのケースで不安定になるのであまり推奨できません。 安全のために、小さいパーツは必ずバイスで固定して切りましょう。
設計の段階で、側面に溝を彫ると便利だという事を説明しましたが、実際に加工する際には板厚方向の穴位置の指示が非常に重要です。 ここの精度を目視で出すのは非効率なので、加工する対象に合わせた治具をパーツと一緒に加工しておきましょう。
治具はパーツの外形に直接はめ込むか、組み合わせ型の設計をしている場合には、上のようなはめ込み型の治具でも加工ができます。 2.5D加工でパーツを作っている人は、必ず2DCADを一度経由すると思うので、その段階で図面を作るのが良いのかなと思います。
実際にタップを切る際には、タップを十分に切削油で濡らして、なるべく垂直を出して切りましょう。 本来なら、タップ用に治具を使って垂直を出すのが正しいですが、ねじ呼び径の2倍以内の深さ(例えばM2なら2x2=4[mm]以内)であれば、割と目視で通るかなーくらいの感覚(※あくまで僕の感覚的な目安)です。
撮影用に通り穴用のストレートタップ入れてますが、実際にはポイントタップ使ってます。
窓があることで、タップの刃先が逃げているのがわかると思います。 切粉の排出ができたりタップの戻すタイミングがわかりやすくなったり、何かと便利なことが多いので窓開けはオススメします。
愛用している刃物です。
タップの呼び径と下穴直径は タップ下穴に相当するドリル径 ドリル加工計算式 を参考に。
下穴用ドリルは三菱マテリアルのバイオレットドリルシリーズを使っています。
1本600~1000円近くする高級刃物ですが、Φ3の長いシャンクを使うとチャックがかなり安定します。
特に、家庭に置けるようなサイズのボール盤に標準付属してくるシャンクだと、Φ2以下の径を咥えた場合にどうしても精度が落ちますので、小径穴でめちゃくちゃ穴がブレるんですけどっていう経験ある方は一度試してみると良いかもです。
あと、高い刃物なだけあってとても良く切れて長持ちしますし、よく切れる分だけ熱も持たないのでパーツを手でホールドしながらの加工がすごく楽です。 あと、複数の直径のドリル入れ替えるときに、シャンク径が共通だと交換が非常にスムーズです。
タップはYAMAWAのポイントタップかスパイラルタップを使っています。 特にM3以降でラインナップがあるSU+SLはもう病みつきになるほどよく切れるので、非常にお薦めです。
切削油は、穴あけには ステンコロリン を使うと良いですが、タップを切るにはサラサラし過ぎていてすぐ流れていってしまうので、もう少し粘度がある切削油が良いと思います。 自分は モノタロウのタッピングスプレー が結構気に入ってます。
厚さ3[mm]のA2017にM2のタップを切る例です。
先ほど紹介したかみ合わせタイプの治具でも、十分な精度で加工ができていると思います。
重要なのは治具の使い方で、これをうまく使いこなせるかどうかで加工のスピードも精度も変わってきます。
一方で、側面タップをしている途中にタップを折った場合には、ほとんどの場合で折れた刃先が中に残り取り除けないため、そのパーツごとゴミになります。
ここで予備を削っていないと、またCNCで再加工する事になり非常に心がしんどくなるため、側面タップ前提の部品は予備を1つ以上作っておくことをお勧めします。
アクセスして下さる皆様、ありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。
側面タップの使いどころ
ロボットのメカ設計において、パーツ同士を垂直に固定する構造は頻繁に出てきます。
例えば図の左側は、直行する2軸のサーボモータを固定するブラケットです。 紫色のベース部分が側面タップのブロックになっていて、そこから縦横2方向にねじ止めされたフレームが伸びてサーボを固定しています。
図の右側は、RoboCupJunior用に作ったmaxon GP16Aのマウントです。 過去の記事 で詳細を説明しています。 マウント本体の固定用にM3のタップが4箇所、またそれに加えてM2の側面タップを使ってクランプの機能を作っています。
側面タップとは何か?
「側面タップ」という名前に正式な由来は無いですが、自分やその周辺の人はだいたいこの手法をそう呼んでいます。 板材加工した時の断面に新たに穴加工+タップ加工をして、ねじの垂直ブロックを作る手法です。
別の方法として、板金曲げで似たようなフレームを作る事があります。 上の写真は二足歩行ロボットのキット部品です。2つの汎用ブラケットのねじ固定で構成されていますが、その気になれば1枚の展開板金でも同じ形状のものを作れます。
曲げ加工は生産性が高かったり、部品点数を大幅に減らせたりするメリットがありますが、断続的に変形負荷がかかる箇所には不向きで、金属疲労で壊れやすい傾向があります。 特に、移動するロボットは常に振動の負荷にさらされますから、構造フレームに曲げを使うことは推奨されません。
ただ、部品点数を大幅に減らせるのはメンテナンス性の向上に大きく付与しますので、例えばセンサ等の軽い部品の固定に限って使うことで、そのメリットをうまく引き出すことができると思います。
似たような直行フレームを側面タップのブロックで構成した場合、上の図のような組み方になります。 中心のタップが切られているフレームは厚さ4[mm]のA7075で、M2のタップが切られています。
板金と側面タップの使い所の判断
板金曲げと比較した場合の側面タップブロックのメリットは-
強度
アルミ合金で板金曲げをする場合には特性的にA5052を選ぶ事になりますが、タップブロックで組む場合にはジュラルミンを使うことができます。
両者を比較すると、フレームを組んだ時点での「剛性」にさほど差は出ないものの、引張強さ:すなわち破断するまでのマージンの大きさにおいて、ジュラルミンのほうが強度的に有利になります。
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組み立てとメンテナンスにおけるメリット
板金曲げでコの字型フレームを作り、その内側に何かパーツを固定したい場合に、対象のパーツの形状によってはフレームを無理に変形させて入れ込まなければならない場合が出てきます(これを避けるために、例えばサーボホーンの固定ねじ部分を逃したフレームを作ったりします)。
側面ねじ固定の構造であれば、この心配は無くなります。
他にも、フレームが破断したり傷ついた場合に、その箇所のみ固定を外して交換できるのは、継続してメンテナンスが必要なロボットにとっては大きなメリットになります。
一方で、部品点数の増加や生産コストの増加などのデメリットもあるため、闇雲に何でもかんでも側面タップで仕上げようとすると作業コストがえらいことになります。 必要に応じて板金や3Dプリンタを使って、なるべく簡単に加工できて、かつ長持ちする設計を目指しましょう。
設計
側面タップを設計する際のテクニックです
-
溝を配置する
設計や加工が少し便利になるテクニックで、主に2つの目的があります。
一つは、実際に材料を加工する際に、ドリルの刃先が安定するので加工が少しだけやりやすくなること。 もう一つは、3DCAD上で側面タップを設計する場合に、この溝を下穴位置のリファレンスとして使うと、基本スケッチ(上図で表示されているスケッチ)を変更する事で側面の穴位置も追従するようなヒストリーが簡単に組めることです。
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タップの刃先を逃がす窓をつくる
タップ加工をする際に粉の排出がスムーズになるほか、刃先の位置を目視できるため電動ドライバーで強引にタップを切った場合でも止まり穴でロックするリスクが少なくなります。
実際には、止まり穴でもスパイラルタップを使うことで加工は可能ですが、スパイラルタップは非常に折れやすく扱いが難しいため、逃し窓+ストレートタップの組み合わせのほうが加工の難易度が低くなります。
3DCADを使う場合の、タップ下穴スケッチの描き方です。
上図の左の面をスケッチに投影して、そこに対角線を引いた中心から円を描き、それを押出で切り抜いて作っています。アセンブリの際にはこの切り抜きを参照して固定拘束をかけます。
以上で紹介した方法はあくまでテクニックなので、必ず必要というわけではありません。
むしろ重要なのは、これから説明する治具のほうで、ぶっちゃけこれさえうまく扱えれば側面タップの部品はだいたい上手く作れると思います。
フレーム同士の噛み合わせ
側面タップで直行フレームをつくるとき、それぞれのパーツが溝で噛み合うような形状を設計すると、より堅牢なフレームを作ることができます。
特に、ねじをせん断する方向に負荷がかかる場合には、フレーム同士の位置関係が狂ったり、最悪の場合ねじが破断したりする事があります。 破断する恐れがないにせよ、ねじ固定されたパーツが振動によってズレる状態は、ねじの緩みを引き起こすため望ましくありません。
移動ロボットの構造フレームにおいては、可能な限りフレーム同士がかみ合うような設計をすることで、高い強度と信頼性を確保できます。 もちろん設計や加工のコストは多少上がりますが、メンテナンスコストを大幅に下げることができるため、ここぞという箇所を狙って使えば、多くのケースでトータルのコスト削減が図れます。
かみ合わせ形状の一例です。
左はΦ1.5のエンドミル、右はΦ2.0のエンドミルで加工する想定で描いています。
エンドミルで内角を切ろうとすると、どうしてもエンドミルの半径分のRが残るため、これを押し切るために外側に円を伸ばしてやります。 そのまま垂直に逃がす方法と、斜め方向に逃がす方法の2パターンをよく使います。
だいたい凹が斜め逃し、凸が水平/垂直逃しになると思われます。
加工
側面の下穴の加工にはボール盤とバイスが必須になります。 材料がある程度分厚ければ、直接パーツの側面をテーブルに立てて下穴を切る事もできますが、ほとんどのケースで不安定になるのであまり推奨できません。 安全のために、小さいパーツは必ずバイスで固定して切りましょう。
設計の段階で、側面に溝を彫ると便利だという事を説明しましたが、実際に加工する際には板厚方向の穴位置の指示が非常に重要です。 ここの精度を目視で出すのは非効率なので、加工する対象に合わせた治具をパーツと一緒に加工しておきましょう。
治具はパーツの外形に直接はめ込むか、組み合わせ型の設計をしている場合には、上のようなはめ込み型の治具でも加工ができます。 2.5D加工でパーツを作っている人は、必ず2DCADを一度経由すると思うので、その段階で図面を作るのが良いのかなと思います。
実際にタップを切る際には、タップを十分に切削油で濡らして、なるべく垂直を出して切りましょう。 本来なら、タップ用に治具を使って垂直を出すのが正しいですが、ねじ呼び径の2倍以内の深さ(例えばM2なら2x2=4[mm]以内)であれば、割と目視で通るかなーくらいの感覚(※あくまで僕の感覚的な目安)です。
撮影用に通り穴用のストレートタップ入れてますが、実際にはポイントタップ使ってます。
窓があることで、タップの刃先が逃げているのがわかると思います。 切粉の排出ができたりタップの戻すタイミングがわかりやすくなったり、何かと便利なことが多いので窓開けはオススメします。
愛用している刃物です。
タップの呼び径と下穴直径は タップ下穴に相当するドリル径 ドリル加工計算式 を参考に。
下穴用ドリルは三菱マテリアルのバイオレットドリルシリーズを使っています。
1本600~1000円近くする高級刃物ですが、Φ3の長いシャンクを使うとチャックがかなり安定します。
特に、家庭に置けるようなサイズのボール盤に標準付属してくるシャンクだと、Φ2以下の径を咥えた場合にどうしても精度が落ちますので、小径穴でめちゃくちゃ穴がブレるんですけどっていう経験ある方は一度試してみると良いかもです。
あと、高い刃物なだけあってとても良く切れて長持ちしますし、よく切れる分だけ熱も持たないのでパーツを手でホールドしながらの加工がすごく楽です。 あと、複数の直径のドリル入れ替えるときに、シャンク径が共通だと交換が非常にスムーズです。
タップはYAMAWAのポイントタップかスパイラルタップを使っています。 特にM3以降でラインナップがあるSU+SLはもう病みつきになるほどよく切れるので、非常にお薦めです。
切削油は、穴あけには ステンコロリン を使うと良いですが、タップを切るにはサラサラし過ぎていてすぐ流れていってしまうので、もう少し粘度がある切削油が良いと思います。 自分は モノタロウのタッピングスプレー が結構気に入ってます。
厚さ3[mm]のA2017にM2のタップを切る例です。
先ほど紹介したかみ合わせタイプの治具でも、十分な精度で加工ができていると思います。
重要なのは治具の使い方で、これをうまく使いこなせるかどうかで加工のスピードも精度も変わってきます。
タップの折損リスク
薄板にタップを切る場合には、そもそもタップが折れることが少ない上、折れたとしても回して取り除ける事が多いです。一方で、側面タップをしている途中にタップを折った場合には、ほとんどの場合で折れた刃先が中に残り取り除けないため、そのパーツごとゴミになります。
ここで予備を削っていないと、またCNCで再加工する事になり非常に心がしんどくなるため、側面タップ前提の部品は予備を1つ以上作っておくことをお勧めします。
さいごに
受験と卒研で結構忙しくてあまりブログ更新できてませんが、一応こうして技術リソースを継承したい欲はあるので、「誰かの参考になりそうな記事」については、今後も時間さえ作れれば続けて書いていきたいと思ってます。アクセスして下さる皆様、ありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。
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